村上龍のエッセイ「無趣味のすすめ」を読んだ。雑誌「ゲーテ」に連載されていたものをまとめたもので、中堅ビジネスパーソンあたりが主な購読層だろうか。毎回、表題の「無趣味のすすめ」や「グローバリズム」など、テーマを決めて書かれている。一本あたりは数ページと短いながらも、本質に迫るあたりは、さすが村上龍だと思う。小説家である彼なので、普通の組織人には分かっていても出来ないよ、ということもあるのだけど、あえてこういう言葉も自分にもっておこうと思う。いくつか言葉を引いておきたい。
・「無趣味のすすめ」 だから趣味の世界には、自分を脅かすようなものがない代わりに、人生を揺るがすような出会いも発見もない。心を震わせ、精神をエクスパンドするような、失望も歓喜も興奮もない。真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり、常に失意や絶望と隣り合わせに存在している。つまり、それらはわたしたちの「仕事」の中にしかない。
・「少数派という原則」 小規模で孤独な環境から出発し、多数派に加入する誘惑を断固として拒絶すること、それがヴェンチャーの原則である。
・「グローバリズムは思想ではない」 He tahght me "keep your friends close, but your enemies closer."<友人とは密に、敵とはもっと密にと、彼(父親)に教わった>
映画『ゴッドファーザーPARTⅡ』におけるマイケル・コルレオーネの台詞だが、シシリーから新大陸にやってきた「ビジネスマン」の言葉として受け取ると、示唆に富んでいる。
・「仕事と人生のパートナーシップ」 恋人のときはお互いを見つめ、結婚後は共に未来を見つめる、という言葉がある。ビジネスにおけるパートナーと夫婦はいろいろな面で似ている。あくまでも基本は信頼だが、その他の要素として、重要な局面での相手の間違いを正せるか、ということがある。また相手が弱っているときに効果的な言葉と態度を示せるかということもある。そしてもっとも大切な条件があって、それは一人でもやっていけるか、つまり自立&自律ができているかということである。
・「夢と目標」 目標は、あったほうがいいという程度のものではなく、本当は水や空気と同じで、それがなければ生きていけない。目標を持っていなければ、人は具体的にどういった努力をすればいいのかわからない。ものごとの優先順位もつけられない。また当たり前のことだが、目標は天から降ってくるものではないし、誰かから与えられるものでもない。自ら設定できなければ何の意味もない。
・「集中と緊張とリラックス」 集中するためにはリラックスが必要であり、かつ自覚的でなければならないという事実は非常に興味深い。
・「ビジネスと読書」 自分は今どんな情報に飢えているのか、それがわかれば目標は八割方達成されたも同然だろう。だからどんな本を読めばいいでしょうか、と他人に聞くような人には最初から可能性はない。
・「リーダーの役割」 わたしはリーダーの「資質」などどうでもいいと思う。どんなに優れた資質があっても、「何をすればいいのかわからない」リーダーは組織を危うくする。リーダーは、「どこに問題があるのか」「何をすればいいのか」わかっている人でなければならない。
・「スケジュール管理」 やるべきことに優先順位をつける、という方法を勧めたい。仕事とプライベートにおけるその人の優先順位が、その人の人生なのだ。
・「『交渉術』という能天気な言葉」 実際の交渉におうてもっとも重要なのは、相手の立場に立って考えるということだ。相手の立場に立ってみないと、つまり相手はどう考えるのだろうかと想像力を働かせないと、交渉などできない。
いつもながらに、自分がぼんやり思っていることをきっちりとした言葉で現してくれたり、もう一歩踏み込んだ考えを示してくれる。口当たりのいい言葉で甘やかすことなく、具体的に物事の本質を捉えようとする。本人は絶対イヤだろうし、やる気もないだろうが、こういう人が政治にたずさわるっていうのもありじゃないでしょうか。